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大阪地方裁判所 昭和39年(わ)870号 判決 1965年2月17日

被告人 家原茂 他二三名

主文

被告人波多野茂登清、同西口孝、同船越利夫、同鄭辰雄、同増田光一を各懲役一年六月に、

被告人石田正和、同林吉雄、同堤実、同樋上三郎、同八上義明、同沢井実、同前田暁二を各懲役一年に、

被告人家原茂を懲役一〇月に、

被告人寺浦信雄を懲役六月に、

被告人甲、同乙、同山口俊彦を各懲役二年に、

被告人大津千太郎、同沢井末男を各罰金三万円に、

被告人前川義和、同新子義雄を各罰金二五、〇〇〇円に、

被告人丁島健一を罰金一五、〇〇〇円に、

被告人富田正美を罰金一万円に、

処する。

被告人大津千太郎、同沢井末男、同前川義和、同新子義雄、同丁島健一、同富田正美においてその罰金を完納することができないときは、いずれも金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人らを労役場に留置する。

被告人波多野茂登清、同西口孝、同船越利夫、同鄭辰雄、同増田光一、同石田正和、同林吉雄、同堤実、同樋上三郎、同八上義明、同沢井実、同前田暁二、同家原茂、同寺浦信雄、同甲、同乙、同山口俊彦に対し、この裁判確定の日からいずれも三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

被告人甲、同乙の両名を右猶予期間中保護観察に付する。

押収してある自動装填式猟銃および回転式拳銃各一挺(昭和三九年押第一〇二九号の一三、二二)は、被告人沢井実から、同自動装填式猟銃一挺(同号の一五)は、被告人家原茂から、同日本刀一振(同号の一七)は、被告人船越利夫から、同日本刀一振(同号の一八)は、被告人堤実から、同日本刀一振(同号の一九)は、被告人樋上三郎から、同日本刀一振(同号の一六)は、被告人増田光一から、同日本刀一振(同号の二五)は、被告人前田暁二から、同日本刀一振(同号の二六)は、被告人山口俊彦から各没収する。

被告人山本進は無罪。

本件公訴事実中、被告人石田正和、同波多野茂登清、同西口孝が蓮根式手製拳銃一挺(前同号の二一)を各所持したとの点についてはいずれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人家原茂は、三代目木田浅組系平組(組長喜多平)の組員、同沢井実は、右喜多平の舎弟、同八上義明は、同組の組員、被告人石田正和、同波多野茂登清、同西口孝、同増田光一は、いずれも右木田浅組系前田組(組長前田敏彦)の組員、被告人船越利夫は、右前田組系住江会の会長、同樋上三郎、同新子義雄、同前川義和、同堤実、同富田正美、同甲、同乙は、いずれも同会の会員、被告人鄭辰雄、同寺浦信雄、同林吉雄は、いずれも右前田組系久次米組(組長久次米久雄)の組員、同大津千太郎は、同組の相談役、被告人前田暁二は、右前田敏彦の義理の弟、同山口俊彦、同丁島健一は、いずれも被告人前田の若い衆、被告人沢井末男は、被告人沢井実の義弟であるところ、

第一、昭和三九年二月二四日午後六時頃、直島義友会系美重組(組長西山宗重)に雇われていた自動車運転手とその助手の両名が、小型ダンプカーを運転して大阪府守口市大日六番地二六八番地前記久次米組事務所前を通過しようとした際、同所付近に置かれていた単車が進路の妨害となつたため、右両名が右単車をどけるよう怒鳴つたところ、同事務所に居合わせた前記久次米組の組員西口孝光から口汚く怒鳴り返されたことに憤慨し、美重組事務所にもどりその旨を右西山宗重に報告するや、同組長は従来から対立関係にあつた久次米組に侮辱されては美重組の面目が立たないと立腹し、右西口孝光および久次米組組長を美重組事務所に連行して謝罪させあわせて美重組の勢威を示そうと企て、その頃、同組組長ならびにその意図をくんだ同組組員ら数名が、数回にわたり、しの等の兇器を携えて、相次いで、右久次米組事務所に押しかけ、同事務所に居合わせた同組組員朽木立三らが右西口孝光の言動につき謝罪しているのにかかわらず、同人らに対し、交々「本人と組長を出せ、一時間以内に来なかつたら久次米組事務所をダイナマイトでつぶしてしまう。」などと申し向けて脅迫し、さらに同組事務所の二階にかけ上つて組長を探したりして美重組組員ら二、三名で久次米組事務所を一時占拠するに至り、右のような執拗な脅迫行為が同日深夜まで続けられた。この間、久次米組組長久次米久雄以下同組の組員らは、紛争が悪化するのをおそれ他へ身を隠すとともに、右のような美重組の一方的かつ執拗な脅迫行為に対処するため、久次米組組員および応援組員に対する通報、連絡、兇器の準備に奔走し、翌二五日早朝から、守口市八雲南三番地八雲荘一号室の同組若者頭堀川孝方において相談を重ねるうち同日午前九時三〇分頃このうえは美重組と喧嘩抗争するもやむを得ないとの決意を固めるに至つた。

被告人家原茂、同石田正和、同西口孝、同増田光一、同八上義明、同沢井実、同波多野茂登清、同船越利夫、同堤実、同樋上三郎、同前川義和、同富田正美、同甲、同山口俊彦、同丁島健一、同鄭辰雄、同林吉雄、同新子義雄、同前田暁二、同乙らは、かくして、右久次米組組長久次米久雄、同組若者頭堀川孝らの指示のもとに、かつ同人らと共謀し、或は、同人らから通報、連絡を受けて、順次共謀のうえ、同日午前一〇時頃から同日夜にかけての間に、美重組組員らが来襲の際は共同してその生命、身体等に危害を加える目的をもつて猟銃、拳銃、或は日本刀等の兇器を準備して或は準備してあることを知つて

一、被告人家原茂、同石田正和、同西口孝、同増田光一、同八上義明、同沢井実らは守口市大字大日旧大庭六番二三九番地の二前記木田浅組組員松下源治郎方および同市金田三七五の二番地被告人沢井実方に、

二、被告人波多野茂登清、同船越利夫、同堤実、同樋上三郎、同前川義和、同富田正美、同甲、同山口俊彦、同丁島健一らは前記松下源治郎方、大阪府寝屋川市字木田三〇六番地木田浅組事務所および同市大字上木田三四番地同組組長前田勝三郎方に、

三、被告人鄭辰雄、同林吉雄は、前記久次米組事務所付近である守口市大日六番七七番地大津千太郎方に、

四、被告人新子義雄は前記松下源治郎方および前記久次米組事務所に、

五、被告人前田暁二、同乙は前記木田浅組事務所および前記前田勝三郎方に、

それぞれ集合し

第二、いずれも法定の除外事由がないのに

一、被告人船越利夫は、同月二五日午前一〇時頃、前記松下源治郎方において、刃渡り約六九センチメートル、同四四センチメートル、同四二センチメートルの日本刀三振(昭和三九年押第一〇二九号の一七、一八、一九)を

二、被告人堤実は、前同日、同府河内市加納四三八番地自宅および前同所において、刃渡り約四四センチメートルの日本刀一振(同号の一八)を

三、被告人樋上三郎は、前同日、同府大東市大字御供田二二八番地自宅および前記松下源治郎方において、刃渡り約四二センチメートルの日本刀一振(同号の一九)を

四、被告人西口孝は、前同日午後五時三〇分頃、前記久次米組事務所において、自動装填式猟銃一挺(同号の一五)を

五、被告人増田光一、同八上義明の両名は、西口孝と共謀のうえ、前同日、前記沢井実方において、前記猟銃一挺(同号の一五)を

六、被告人増田光一は、前同日、前記松下源治郎方等において、刃渡り約五七センチメートルの日本刀一振(同号の一六)を

七、被告人林吉雄は、前同日昼頃、前記堀川孝方において、単発式手製拳銃一挺(同号の四)を

八、被告人沢井実は、前同日、前記松下源治郎方等において、回転式拳銃一挺(同号の二二)を

九、被告人大津千太郎は、前同日頃から同月二九日頃までの間、前記自宅において、刃渡り約五七センチメートルの日本刀一振(同号の一四)を

一〇、被告人大津千太郎、同林吉雄、同寺浦信雄の三名は、田中増登と共謀のうえ、同月二六日、同府守口市八雲南四三番地銀水荘一号室被告人林吉雄方において、自動装填式猟銃一挺(同号の一五)を

一一、被告人前田暁二は、前同日、同府寝屋川市大字木田三四番地同被告人方において、刃渡り約七一、二センチメートル、同六一センチメートルの日本刀二振(同号の二五、二六)を

一二、被告人鄭辰雄は、

(一) 北村一男、本田和男と共謀のうえ、昭和三八年一一月四日頃、大阪市福島区海老江中三丁目六九番地二光発条株式会社付近路上から大阪府守口市寺内町二丁目二〇番地の三北村一男方まで他から買い受けた蓮根式手製拳銃一挺(同号の二)を運搬して

(二) 同三九年二月二五日午後八時頃、前記大津千太郎方において、刃渡り約五七センチメートルの日本刀一振(同号の四)を

一三、被告人沢井末男は、

(一) 昭和三八年一〇月頃から同三九年二月二五日までの間、同府守口市大字金田一九六番地の一自宅において、回転式拳銃一挺(同号の二二)を

(二) 同月二六日、同市大字大日旧大庭四番二八五番地奥村孝雄方から前記沢井実方まで自動装填式猟銃一挺(同号の一三)を

それぞれ所持し

第三、被告人山口俊彦は、

一、遊興費に窮し、友人の池田組系所司原組組員の渡辺輝男と共謀のうえ、かねて知合いの平井貞夫(当二二年)が同人所有の乗用車を約束通りに貸してくれなかつたことに因縁をつけ、同人から金員を喝取しようと企て、昭和三九年三月六日午後八時頃、寝屋川市大字石津三三六番地付近路上において、同人に対し、交々「昨日なんで車持つて来なかつた。おかげで大事な用事が出来なかつた。一体どないしてくれるんや。五万円持つて来い。」「二五、〇〇〇円段取りして山口に渡してやれ。」などと申し向けて金員を要求し、もしその要求に応じなければその身体にどのような危害を加えるかも知れない気勢を示して同人を畏怖させ、よつて同日午後一〇時頃、同市大字大利一〇八番地先路上において、同人から現金二万円を交付させてこれを喝取し、

二、前記平井からさらに金員を喝取しようと企て、同月一〇日頃の午後七時頃、同人を同市大字石津三三六番地付近路上に呼び出し、同所において、同人に対し、「この前の金の残りはなんで持つてこん」などと申し向けながら、玩具のピストルを本物のピストルのように仮装して懐中から取り出すしぐさをして同人を前同様畏怖させ、よつて同日午後八時頃、同市大字大利一四四番地先路上において、同人から現金二五、〇〇〇円を交付させてこれを喝取し

三、同年五月一五日午後四時頃、同市大字葛原一七四番地呉菱石油株式会社寝屋川市葛原給油所において、同給油所長小野国政に対し、些細なことに因縁をつけ、同人の左大腿部を足蹴りにする等の暴行を加え、

第四、一、被告人甲、同乙は共謀のうえ、さきにグループを結成して交際を続けていた中野泰彦および山中平太郎が絶交したい意向であることを知り、手切金名下に金員を喝取しようと企て、同年五月三日頃から同月一〇日頃までの間、再三、大東市大字三箇七一〇番地大東会館パチンコ店において、交々、前記中野、山中に対し、「堅気になりたいのやつたら金を出せ。金をもつてくるか指をつめるか。一万円持つてきたら堅気にしてやる。」「持つて来なかつたら甲にどつかれるぞ。」などと申しむけて脅迫し、もしその要求に応じなければ同人らの身体に危害を加えかねない態度を示して、同人らを畏怖させ、よつて同月二四日、同市三箇一、一六二番地「やなぎ」喫茶店において、同人らから被告人乙が現金一万円の交付を受けてこれを喝取し

二、被告人甲は前記中野からさらに金員を喝取しようと企て、同年七月一〇日午後一二時頃、河内市鴻ノ池三九五番地先路上において、同人に対し、「保釈で出てきたばかりや五、〇〇〇円都合してくれ。明後日「やなぎ」にもつてこい。金がなかつたらえんこづめ(指をつめること)せい。」などと申しむけて脅迫し、同人を前同様畏怖させ、よつて同人から金員を喝取しようとしたが、同月一二日前記「やなぎ」喫茶店に右金員を受取りに赴いた際、警察官に逮捕されたためその目的を遂げなかつた

ものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人丁島健一の確定裁判)

同被告人は昭和三九年七月一一日大阪地方裁判所で恐喝未遂罪により懲役一〇月、三年間執行猶予に処せられ、右裁判は同月二六日確定したもので、この事実は同被告人に対する前科調書によつて認める。

(法令の適用)

一、判示第一の所為    刑法六〇条、二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号

判示第二の各所為     銃砲刀剣類等所持取締法三一条一号、三条一項一号(五、一〇、一二(一)の各所為についてはなお刑法六〇条)

判示第三の一、二の各所為 刑法二四九条一項(一の所為についてはなお同法六〇条)

判示第三の三の所為    刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項一号

判示第四の一の所為    刑法六〇条、二四九条一項

判示第四の二の所為    刑法二五〇条、二四九条一項

二、刑の選択  被告人家原茂、同石田正和、同波多野茂登清、同西口孝、同船越利夫、同鄭辰雄、同林吉雄、同堤実、同樋上三郎、同増田光一、同八上義明、同甲、同山口俊彦、同沢井実、同乙、同前田暁二の判示第一の罪につき所定刑中いずれも懲役刑選択

被告人前川義和、同新子義雄、同富田正美、同丁島健一の判示第一の罪につき所定刑中いずれも罰金刑選択

被告人船越利夫、同堤実、同樋上三郎、同西口孝、同八上義明、同増田光一、同林吉雄、同沢井実、同寺浦信雄、同前田暁二、同鄭辰雄の判示第二の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑選択

被告人大津千太郎、同沢井末男の判示第二の各罪につき所定刑中いずれも罰金刑選択

被告人山口俊彦の判示第三の三の罪につき所定刑中懲役刑選択

三、併合罪   刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(但し、被告人大津千太郎、同沢井末男については同法四五条前段、四八条二項)

被告人船越利夫、同堤実、同樋上三郎、同西口孝、同八上義明、同増田光一、同林吉雄、同沢井実、同前田暁二、同鄭辰雄について重い判示第二の当該各罪の刑に、

被告人山口俊彦については最も重い判示第三の一の罪の刑に

被告人乙、同甲については重い判示第四の一の罪の刑に、

各法定加重

被告人丁島健一については、刑法四五条後段五〇条

四、労役場留置 刑法一八条

五、執行猶予  刑法二五条一項(被告人甲、同乙については少年法五二条)

六、保護観察  刑法二五条の二第一項前段

七、没収    押収してある自動装填式猟銃二挺(昭和三九年押第一〇二九号の一三、一五)、同日本刀一振(同号の二六)は判示第一の罪の組成物件であつて犯人以外の者に属しない、同日本刀五振(同号の一六、一七、一八、一九、二六)、同回転式拳銃一挺(同号の二二)は順次判示第二の六、一、二、三、一一、八の罪の組成物件で、かつ当該被告人の所有物、各同法一九条一項一号二項、

(弁護人の主張に対する判断)

被告人新子義雄の弁護人は、同被告人は、判示第一の犯行当時急性アルコール中毒症により心神耗弱の状態にあつたものであると主張するので検討してみるに、同被告人の前掲各供述調書によれば、同被告人は、飲酒のため気持が悪くなつたことは認められるが、それは既に判示松下方における兇器準備集合罪成立後のことであるのみならず、同被告人が久次米組事務所に移動した前後の行動に関する供述をみても自己の行動の意味をよく認識しているのであつて、同被告人が正常な判断能力を有しそれに基づいて行動していることが明らかであるから、弁護人の右の主張は採用しない。

(被告人山本進の無罪および同石田正和、同波多野茂登清、同西口孝の一部無罪の理由)

被告人らに対する公訴事実は

一、被告人山本進は、昭和三九年二月二六日頃から同年四月八日までの間、門真市大字岸和田八九三番地自宅および大東市尼崎三二七番地朝尾善次郎方納屋において、蓮根式手製拳銃一挺(昭和三九年押第一〇二九号の二一)を、

二、被告人石田正和は、同年二月二五日午前八時三〇分頃、門真市横地六六四番地石橋作次郎方同被告人自室において、前記拳銃一挺を、

三、被告人波多野茂登清は、前同日、前記松下源治郎方において、前記拳銃一挺を、

四、被告人西口孝は、翌二六日、門真市大字岸和田六六四番地自宅において、前記拳銃一挺を、

いずれも法定の除外事由がないのに、各所持したというものである。

以上の各事実は、被告人らの当公判廷における各供述、被告人山本進の(巡)書(39 4 8)、同石田正和の(員)書(39 5 7)、同波多野茂登清の(員)書(39 5 6)、同西口孝の(巡)書(39 5 1)、押収してある蓮根式手製拳銃一挺(昭和三九年押第一〇二九号の二一)により全部認めることができる。

そこで、右拳銃が、はたして銃砲刀剣類等所持取締法二条一項にいう「銃砲」に該当するかについて検討するに、同条項はその要件として「金属性弾丸を発射する機能」(以下単に発射機能と等により一時発射機能に障碍があつても通常の修理又は加工によつてこれを回復しうる場合も右の要件に欠くることないものと解せられるが、右の故障等および修理の程度を考えるについては同法が刑罰法規である性質上いやしくも拡張しすぎることのないようにこれを厳格に解釈すべきものと考える。

ところで、西本一二作成の昭和三九年四月一六日付鑑定書、同人の当公判廷における証言および押収してある右拳銃を総合すると、右拳銃は鉄製(ただし握り側板は木製)回転弾倉式で、弾倉は手動により回転させるもので弾倉孔六個、無腔綫の手製拳銃であり現状では撃鉄スプリングの弾性が劣弱でしかも撃針が鈍であるほか撃針を固定すべき部分が弛緩し左右にがたつき、弾倉も動揺しかつ弾倉軸が歪んでおるなど幾多の故障のため発射機能を有せずこれを具備させるためには右拳銃を全部分解したうえ、撃鉄スプリングを強力なものと取り替え、かつ撃針を尖鋭にすることが是非とも必要であるほか、前記のような各故障をあわせて修理加工しなければならないことが認められる、しかも大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所化学係長、技術吏員として拳銃等の鑑定歴一四年を有し、右拳銃を鑑定した証人西本一二の証言によれば「右のような修理加工は、二、三日ぐらいでできるのではないかと思う」とあるが、前記のような修理、加工によつて右拳銃が果して、発射機能を有するに至るものか否かは断定はできないというのである。また右拳銃は全体の材料の使い方も拙劣で私製品の中でも極めて劣悪なものであること、さらに前記鑑定書によれば右拳銃の銃腔表面の亜硝酸反応は陰性であつて全く、発射形跡が認められないことなどから考えると右拳銃は故障等によつて一時発射機能に障害がある拳銃ではなく、また、あと若干の加工を施せば完成する半製品(未完成品)でもなく、むしろ、もともと発射機能を具備しない仕損品であると認めるのが相当である。

以上の諸点を総合すると右拳銃に発射機能を具備させる作業は、いわゆる通常の修理又は加工の程度を越える、むしろ新規製作或はこれに準ずる改造ともいうべきものであるから、右拳銃は銃砲刀剣類等所持取締法二条一項にいう「金属性弾丸を発射する機能を有する」銃砲には該当しないものと認めるのが相当である。

そうだとすると右被告人らの各所為は罪とならないから、刑事訴訟法三三六条により右被告人らに対し主文のとおり無罪の言渡をする。

なお、被告人鄭辰雄に対する公訴事実中、同被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和三九年二月二五日午後八時頃、守口市大日六番七七番地大津千太郎方において、右蓮根式手製拳銃一挺を所持したという点についても、以上と同じ理由によつて罪とならないが、判示第二の一二の(二)の罪と想像的競合の関係にあるとして起訴されたものと認められるから、主文において特に無罪の言渡をしない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川四郎 山路正雄 平井重信)

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